こんにちは。長雨の季節になりました。先月8月(2007年)の更新は夏休みをいただき、2ヶ月ぶりの記事。
アンニュイな秋雨シーズン突入です。雨といえば、今年の台風9号は凄まじかったですね。台風中継で川の幅が普段の10倍にふくれ上がった東京・多摩川の映像を見ながら、「伊勢湾台風」という言葉がふと浮かびました。
思い返せば4年前の私にとって、「伊勢」とは「伊勢エビ」「伊勢湾台風」そして「なんだかすごいところ」くらいの印象しかありませんでした。それが、3年前にとあるきっかけで伊勢の人々と神宮のファンになってしまった私。ご縁とは不思議です。
■伊勢エビならぬ伊勢人(いせびと)
ご縁とは不思議です。大きなカメラを持ってパチパチと写真を撮っていると、ついお友達が増えていくのが何やらわたしの性分のようです。伊勢においてはその傾向がさらに強まります。なぜなら伊勢人(いせびと)のみなさんは「おかえりなさい」の気持で声をかけてくれるから。伊勢についてみなさん熱心に教えてくださいます。
そしてそんな伊勢人の習慣は今に始まったことではなく、驚きの歴史によるものなのです。今回はそんな伊勢人に注目しながらお話を進めたいと思います。
■ええっ?!伊勢へ無料で行ける?!
そうなんです。実は無料で行けます。
といっても江戸時代の話です。ある伊勢人の方のお話によれば、江戸時代は「おかげ」と書いた笠をかぶり、ひしゃくを持っていればその人は「お伊勢参り」をしているという目印だったそうです。そしてこの2つの目印を持っている人は、伊勢への道中は無料で旅行が出来たのだというのです。
道中は、ひしゃくにお金を入れてもらい、食べ物も施してもらいつつ伊勢へ。施す側でお金がない人からは、一晩の宿を提供してもらいます。そうした行為を「施行(せぎょう)」と言います。施行する人々、特に伊勢の人々はこうしてお伊勢参りの人々をサポートすることで神様に奉仕する、というならわしでした。伊勢人の「おかえりなさい」の心意気はこうした背景をもとに培われてきたのです。
ちなみに「士農工商」でおなじみの階級社会だった江戸時代、女性や奉公人は旅行を禁じられていた時代でもありましたが、この「お伊勢参り」だけは例外。女性であっても、奉公人であっても、伊勢にお参りするのであれば許可がもらえたのです。しかも旅費が無料で、です。この「施行」を取り上げてみても、さまざまな仏教の宗派がひしめく日本の中で「伊勢神宮」だけは別格であり、人々の精神的支柱をなしていたことが伝わってきます。では、その精神的な支柱とは一体なんなのでしょう?
■伊勢神宮とミス・ユニバース
意外に知られていないことですが、伊勢神宮、とくに内宮(ないくう)でお参りする際には「家族が今年も無病で過ごせますように」といった普通の神社でするようなお願い事はしないことになっています。では一体何を祈る場所なのでしょうか??
お分かりになる方は珍しいと思います。実は「世界平和」なのです。「ええ?なんで??まるでミス・ユニバースのコンテストのスピーチみたい!」とわたしは思わずニヤリ(笑)。でも冗談ではなく、本当です。
神道の根本的な思想である「八百万の神々」への敬う心、この世に存在するすべてのものに感謝する心、つまり「生きとし生けるものすべての平和を祈る」所なのです。いやはや、スケールが大きなお話ですね。ミス・ユニバースの「紛争のない、飢えた子供たちがいなくなる、平和な世界を祈ります!」どころの話ではないのです。
生きとし生けるものですから、人間だけでなく植物や昆虫や獰猛な動物も入る訳です。まさに宇宙(ユニバース)レベル。ちなみに世界平和を祈るのはおなじみ天照大神(あまてらすおおみかみ)を祀る内宮(ないくう)で、外宮(げくう)に祀られている豊受大神(とようけのおおみかみ)へは、衣食住や産業・商売について豊穣を祈ります(基本的は「世の中全体の豊穣」がメインで、現在は産業もそれに含まれているということでしょう)。
天照大神は女性の太陽神。太陽は太陽系を統率している訳ですからある意味「ミス・ユニバース(宇宙の女神)」とも言えるかもしれませんね。
■1日だけは特別
こうして、「生きとし生けるものすべてを敬い、平和を祈る」という考え方。伊勢の地を踏み、伊勢人のみなさんのお話を聞いていると、ここがどうも「日本人の精神的支柱」の大きな柱であるように思えます。
それはカメラを構えてファインダーで景色をとらえるうちにどんどん身体に沁みて来るのです。もちろん神道や文化人類学のご専門の方のいろいろな学説はあると思いますが、いち写真家の私がカメラを片手にその土地からわき上がってくる感覚を通訳するとそうなります。
そして驚いたことに、伊勢人の方を中心にいまだにそうした考え方は習慣となって残っているそうです。それが「朔日参り(ついたちまいり)」です。これは、毎月1日に普段より朝早く起きて神宮に参拝し、「先月は無事にすごせました、来月もよろしくお願いいたします」と感謝するというもの。毎月のはじめにリセットをして、「感謝」をする。「感謝」という心がけであれば、平和の音色が聞こえてくるようです。こうした伊勢人の心がけには思わず背筋がシャンとしてくるものがありますね。
■鏡の謎
さて、最後に伊勢で耳にしたエピソードを紹介したいと思います。この話には「なるほど!」と思わず膝を打ち…、もといパソコンのキーワードを打ちまくりました(笑)。
伊勢神宮に祀られているものに「鏡」についてのお話です。天皇陛下が即位するときに必要な「三種の神器」の中に「鏡」があることはご存知な方が多いと思います。その鏡、なんでも「鏡」という音のひとつひとつには意味があるそうです。
か=自分の中にある明るい部分
が=自分の中にある暗い部分
み=我が身
そして「かがみ」から「が」を取る、すなわち、人の心を磨き磨いて美しい心になったときに「が」が取れるそうです。そうすると「が」がなくなるので、「鏡」は「かみ=神」になります。「くもりなく心を磨きなさい、明るい部分に気付きなさい、そしたら神様と一緒になれます」ということだそうです。
このエピソードは神宮や神社で「鏡」を祭ることの意味の1つとも言われているとか。興味深いですよね。伊勢にいる「神々を継承する人々」・「伊勢人」の中にはこういった感覚の中で時を過ごし、語り伝えていく人々もいるのです。
伊勢神宮がパワースポットである理由--それは、そうやって心を磨く感謝のエネルギーが満ちているからかもしれないです。例えば、誰かがケンカを始めると、近くにいる赤ちゃんはその「気」を察して泣き出します。逆に周りの人がニコニコしていて感謝の「気」が満ちていたら、赤ちゃんは笑顔いっぱいはしゃぎます。そんな風に、ぜひ伊勢を感じてみてください。